恋愛の神様
俺は亜子の差し出すペットボトルを受け取って水を煽りながらクスクスと笑った。
「オマエさ、野山チィ知ってたっけ。」
「野山チィ……?野山、小鳥さんの事かしら?」
「ああ、そうそう。その小鳥さん。アイツ恋愛の神様なんだってよ。今日、帰り道で易者に拝まれてやがんの。」
「恋愛の…………神様?」
易者に拝まれて困惑する野山を思い出しぷぷっと笑う。
「そー。易者が言うには、アイツに関わったヤツは恋愛が成就するんだと。なぁ、もしそれが本当ならどーする?」
他愛ない戯言のつもりで亜子を覗いた。
一瞬―――、そこにあった仄かな陰りを俺は見逃さなかった。
亜子ははっとしたように笑顔を浮かべた。
「もし、本当なら……面白いわね。」
胸にドロリと黒い物が湧きあがる。
なぁ……オマエは今、何を考えたんだ?
願っても叶わない虎徹との恋愛を憂いたのか?
それとも望まない俺との恋愛を憂いたか?
陰りの本当の意味を俺が知る術はない。
蓋をしたペットボトルを脇に放り投げ、白く滑らかな腰を引き寄せた。
「ンッ……レオ……今、したばっかり……」
「いいだろ。オマエだって」
―――こうすれば、すぐにその気になる。
先ほどの余韻で濡れそぼったそこを指で掻き乱しながら耳に落した意地悪いセリフに、亜子は顔を赤くして俺を睨んだ。
薄く空いた唇から熱い吐息が滑り落ち、俺を睨む双眸は潤んでいる。
鬱積を晴らすように亜子を組敷いて、その身体を貪った。