恋愛の神様
野山小鳥
※※※kotori noyama※※※
気付くとワタクシは路上をとぼとぼと歩いておりました。
激情に駆られるままに会社を飛び出してしまいました。
はぁ……、
タイムカードを打ち損じましたが、就労時間は過ぎていた筈なので後で総務課に嫌味を言われますが、構わないでしょう。
晩秋も晩秋、暦の上では冬です。
太陽はさっさと早仕舞いして、夕刻ですが既に闇が広がっています。
着の身着のままに飛び出してきたので、上着もありません。
刺すように冷たい空気に放った息が白く染まります。
どんなに凍えたって、鹿島部長にフラレタ時みたいに温めてくれる腕はもうありません。
それを改めて思うと胸の奥がきゅーっと握りつぶされるようなイタミが奔ります。
これまで当たり前みたいに感じていた幸せが……草賀さんとの時間が、もう二度と手に入らないのだと思うと、悲しくて、涙が滲みます。
とても綺麗な女性でした。
とても太刀打ちなど出来ません。
草賀さんの事をもっと早く好きだと自覚したのだとしても、ワタクシじゃあ、草賀さんの彼女には役者不足です。
諦めましょう。
そう思うのに、今はちっとも割り切れる自信がありません。
これまでの片思いなら相手に意中の相手がいると知った時点で割り切りました。
確かにその時はイタイですけれど、恋人がいる人を煩わせるのも、無駄な争いも合理的ではない、と思えたのです。
また、惚れた時間が短い分、割り切りも容易かったのかもしれません。
ですが草賀さんの存在はいつの間にか私の心に根を広げ、深い部分にしっかりと息づいてしまっていたものだから、ひっこ抜こうとしても簡単にはいきません。
悲しくて、辛くて、イタくて堪らないのです。