恋愛の神様
ワタクシはこれからどうしたらいいのでしょう……
滲んできた涙に鼻を啜りながら、橋をとぼとぼと渡っていたワタクシは、不意に足を止めました。
今、行き過ぎた光景に我が目を疑い、ぎょっと振り返ります。
欄干に人が立っています。
小川ですが落ちたら怪我をする高さはありますよね?
ひょっとして身投げですか!?
今はもう何も考えたくない。考えられない……などと厭世的になっていましたが、人命がかかっているとなればさすがに浸ってる場合ではありません。
「い、いけませんっ、親からもらいうけた大切な命―――」
慌てて説得を試みようとして、男を見上げたまま放心してしまいました。
黒いコートに黒い帽子を目深に被ったいかにも辛気臭い男は、そこがステージでもあるかのように突然歌いだしたのでした。
聞き覚えのない歌でしたが、胸の奥がジンと震えました。
冬の朝の空気よりも澄んだ声音。
どこか、硬質で冷たいくせに、差し込んだ朝日の仄かな温かさまでも孕んで。
その歌声が世界の一部だとでもいうように、摩擦もなく溶ける。
生きているという、深く揺るぎない余韻を残して―――。
「……綺麗な、声……………ステキな、歌……」