恋愛の神様
SPは無言でハクトさんを掴みました。


「お嬢様、コチラはどういたしますか?」

「ついでに運んでちょうだい。さっさとするのよ。こんなところにいつまでもいたら騒ぎになっちゃうわ。」
お嬢様は嫌そうに鼻に縦皺を刻んで言い捨てました。


SPさん、御意、と首肯するやいなや、ハクトさんに抱き潰されているワタクシごと車へ放り込みました。


ええええええええ!?


「は、放してくださいっ!!人浚いぃぃ―――!!」


思わぬ展開に絶叫したワタクシの声はドアに恙無く遮断され、ワタクシは問答無用で連れ去られたのであります。……ドナドナ…。









「あのぉー。ひとまずコレ、どかして下さいませんか。」


現在、移動中のバンの中。

対面式にした座席で、向き合うお嬢様に尋ねました。

運転手は先ほどのSPです。

ハクトさんは車に乗り込むや否やグースカ寝ています。

ワタクシを逃がす気が毛頭ないらしくワタクシを抱きしめたまま。

ハクトさんの体勢は徐々に崩れ、ワタクシは座席の隅に押しつぶされている状態です。

サラサラの白髪が頬を撫でてくすぐったいですが、それより重くて仕方ないです。
少し鬱陶しいですし。

テレビ越しの無表情で寡黙でクールなアーティストというイメージはどこへやら。

人を問答無用で拉致したくせに、呆れる程無邪気な方です。

芸能人がサバをよんでいないのだとしたら、公表されていたお歳は確か草賀さんと同じ筈ですがとてもそうは見えません。
ワタクシはおろか、小学生並みに見えます。


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