恋愛の神様
野山小鳥
※※※kotorin noyama※※※
最近―――出社し、自分のデスクの前で胡乱げに立ち尽くすのがワタクシの日課となっております。
デスクの上は貢物の黒山。
恋愛の神様説がまことしやかに会社を席捲した所為です。
一応フォローしておきますが犯人は草賀さんではありません。
総務課のサトウととんとん拍子に事を運んだバカ山田が『野山に相談すると恋が実る』と確証もない事を吹聴した為です。
しかも間の悪い事にこの間の易者事件……会社からさほど遠くない場所だったが故に目撃者がいて、単なる噂を事実に伸し上げたのです。
生憎ワタクシは、そんな摩訶不思議な超能力は持っておりませんヨ。
うんざりと溜息を吐いて、ワタクシは仕事前にデスクを片付け始めます。
本日は某有名ブランド店の高級チョコ、コンビニのオニギリ、手作り弁当、パン、大福、ケーキ―――食物が多いのが謎です。
お供え物感覚だからでしょうか。
そして尤も迷惑なのがコレ。
ボトル、袋問わず、鳥の餌。ヒエやアワ、ぎっしり詰まっています。
この間うっかり蓋が空いて中身が飛散しました。
床の目地に入り込んだものが数日後根性逞しく発芽していました。
こっそりと観察するのが最近のワタクシのささやかな趣味となっております。
「う!?」
ワタクシは呻いて片付けの手を止めました。
こ、この包みは某デパ地下でg1000円は切らない高級牛肉!?
野山小鳥、名前に反してがっつり肉食系です。
何故この方はワタクシの好物をご存じなのでしょう。
個人情報保護条令もへったくれもありません。
包みに書かれた名前を確認し、成る程と納得します。
さすがマーケティング課です。
というか、労力も金も惜しまず眉唾物の噂話に縋りつくなんて、この方相当切羽詰まっています。
さしあたり、今夜の夕飯はスキヤキに決定です。タノシミ♪
ランチタイムになりワタクシは社食へ向かいました。
山と積まれた貢物も、生物は高級牛肉以外、朝ご飯と十時のオヤツで消費してしまいます。
お菓子の類は三時のオヤツと嬉しい夜食に回しましょう。
というわけで小腹が空きました。