恋愛の神様

唇を噛み締めるワタクシをお嬢様は腕を組んで見下ろします。


「で?何がそんなに問題なのよ。……ああ、金?まぁ、生活の全ては面倒見るけど、やっぱり代償は必要よね。分かったわ。今の給料の二倍出す。」

「あのぉ、……それって欠勤ということですよね?まさか辞めろ、とか?」

「さぁ?ピーの代用が見つかるまでだから。」

「いつ見つかるんです!?あのですねっ、しがないOLですけれどそれなりに責任があるんです。欠勤にしたって、それほど長く休んでたら馘になっちゃいますよぅ。解放されても無職じゃ困ります!」


お嬢様は形の良いアーモンドアイを片方だけ眇めました。

いきなり腕を伸ばしワタクシの胸を鷲掴み―――にしたわけではなく、胸ポケットに入れてあった携帯を奪って行きました。


「何するんですかーっ、返して下さいっ!」

「アナタ名前は?何課なの。」

「……野山小鳥。営業事務課ですが。」


奪還しようと慌てますが、何分ハクトさんに押しつぶされているので身動きも取れません。

ワタクシがジタバタあがいている間にもお嬢様は勝手に携帯を操作してどこかへ電話を掛けました。

というか、連絡先はウチの会社だったようです。

急欠の場合に控えていた総務事務課から、上層部のどちら様かに取り次いでもらいました。


「ご無沙汰いたしております。ワタクシ、ジェネラルアーツプロダクションの雨宮龍妃です。」


凛としながらも営業の愛相を含んだ声音でお嬢様―――タツキさんは電話口でニコリと微笑みました。


「ええ……はい。ええ…ハクトへのオファーの暁には快くお受けさせていただきます。それでご相談なんですけどソチラの営業事務課の野山小鳥をですね、暫く公欠扱いにして頂きたいんです。理由ですか?不治の病辺りでよろしいかと……復帰は未定で…ええ。嬉しいです。はい。では失礼します。」


営業事務課の野山小鳥、不治の病とやらで無期病欠

―――呆気なく了承された模様です。

そりゃそうでしょうとも、替えの効く事務員などより、アーティスト・ハクトの方が価値がありますもの。

これが馬場課長辺りならもう少し突っ込んでくれたかもしれませんが、所詮見ず知らずの上層部の方です。
ワタクシを売り飛ばす事に良心の呵責など片平もありませんよね。



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