恋愛の神様
五個ほどあるオムスビを前にワタクシは意地悪く目を細めます。
「ふっふっふ……お好きなモノをお選び下さい。中身はシャケとオカカと昆布と高菜と何もナシの塩むすびです。」
あまりスパルタでも可愛そうなので、とりあえずドボンは一つ。
シャケ以外ならハクトさんでも大丈夫です。
て、塩むすびに負けるシャケむすびというのも何か間違っている気がしなくもありませんが…。
プレーヤーがハクトさんならそれも仕方なしです。
ハクトさんは難しい顔で吟味して吟味して吟味した挙句一つを選びだし―――
一口食べてガクーッと項垂れました。
えぇ……五分の一の確率で外すなんて。
なんて運の悪い方なんでしょう。
少々哀れに思いましたが、ココは甘やかしませんヨ。
「選んでしまったのですから、責任持ってちゃんと食べて下さいね。」
ワタクシのすげない態度に、暫く上目遣いに恨めしそうな顔をしていたハクトさんは、徐に溜息を吐きました。
「…だっこでピーが食べさせてくれるんなら、食べる。」
「は?無理に決まってますでしょうが。体格差考えて下さい。」
眉を顰めて抗議した途端、ワタクシはひょいっと抱きあげられておりました。
ワタクシの座っていたパイプ椅子にハクトさん、その膝の上にさも当たり前のようにワタクシが置かれました。
抱っこって……これもまぁ抱っこですけど。
そしてこれまたさも当たり前みたいに、ワタクシに向かってアーンと口を開けるハクトさんは餌をねだる雛鳥そのものです。
「……照れや羞恥心というものはまるでないんですかね?」
「……?あるよ?なんで?」
「でしたら、こんな子供みたいな真似に恥じ入ってくださいよ!」
「???子供じゃさすがにピーを抱っこ出来ないと思うけど…?それにピー相手に今更。前はよく一緒のゴハン食べたよねぇ…。」
しみじみとした口調でのたまわれ、ワタクシは諦めて口を噤みました。
ダメです。
ハクトさん。
ワタクシを以前いらっしゃったピーさんだと信じて疑いやしません。