恋愛の神様




既に夜ですが引き続きバンドの練習へ向かいます。

ツアー用に結成されたにわかバンドとご一緒にハクトさんが練習している間、ワタクシとタツキさんはスタジオの別室で待つ事になりました。

タツキさんは部屋に入るなり教科書を開いて勉強に勤しんでおります。

するとそこへ軽快なノックが響き、中年男が入ってきました。バンドには無縁そうなスーツ姿です。


「パパ………社長。こんなトコロへどうしたの?何か用?」


少し驚き気味のタツキさんは、すぐさま平静を取り繕って尋ねました。

社長……
これがタツキさんのお父様で、会社の社長さんなんですね。


「いや、近くを通りがかったもんでね。君がココにいると聞いて寄ってみた。」


渋くても尚華やかさを残すダンディーが親しみのある笑顔を浮かべます。

しかしタツキさんは警戒するドーベルマンみたいに、胡散臭げに眉を顰めています。


「…用件があるならストレートにお願いするわ。一体、何の用なの?」


愛相の欠片もない娘の対応にダンディーは微苦笑を浮かべました。


「あぁ……いや。そろそろ進路を決める頃だったね。」

「だから?もう決定したわよ。芸能の経営課。無論ハクトのマネージャーも続行させてもらうわよ。」

「ああ。そのことなんだけどね。海外留学は視野にないかい?」

「は?海外、留学?」


まるで宇宙人語を聞かされた人みたいにタツキさんはぽかんとします。

その顔がじわじわと悪鬼の形相に歪んで行きました。


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