恋愛の神様
「タツキさん……?」
社長が消えても立ち尽くしたままでいるタツキさんをワタクシはそっと伺いました。
「何故、反論しなかったんですか?」
タツキさんが学業の片手間で仕事をしているなんて思いません。
いつだってハクトさんの事を考えてらっしゃいます。
誰よりも何よりも。
以前、ワタクシに言いましたよね。
ショボイ人生もハクトに賭ければ本望でしょ……って。
その時ワタクシの人生だけじゃなく『私の人生も』と言ったのをワタクシは聞き逃しませんでしたよ。
タツキさんは、とうに自分の人生をアノ方に賭けているんです。
学業と仕事を両立させるのがどれほど大変か。
仕事をする代償に学業をおろそかにしないという約束を親と交わし、その通りトップクラスの成績を維持しているようです。
若輩者という社会で仕事をするには不利な立場で、それでも大人と肩を並べているには相当の苦労と努力がないと出来ません。
タツキさんはいつだってハクトさんの為に全身全霊を賭けて戦っている。
―――それゆえ、大人としてパパさんの気持ちもあながち分からなくもありません、が…。
早いうちから自分の進むべき道を見つけるのはとても幸運な事だと思います。
しかしながら迷いながら色々なモノを見て吸収する子供時代だって、人生において決して無駄なんかじゃないのですから。
タツキさんの聡明で大人な部分―――親としては自慢であるのと同時に、欠けた子供らしさの分だけ不憫に感じる事でしょう。
でもやはりワタクシはタツキさんの肩を持ってしまいます。
「生半可にハクトさんに関わっているわけではないのに、どうして今更身を引いてもイイなんて思うんですか?」