恋愛の神様
「ぎゃぁぁぁ。セクハラです!ペットがセクハラウサギなら飼い主もセクハラ魔です!!」
「はぁ、やっぱり気持ちいいわ。この幸福感ったら……女の私ですら癖になりそうな抱き心地だもの、シロが触りたがるのも分かるってもんだわよ。」
「タツキさんっ…!」
暴れるワタクシを無視して抱きしめたまま、タツキさんは静かに言いました。
「シロは私に触ろうとはしないもの。」
「え?」
ワタクシは動きを止めました。
「ニアミスで触れる事はあっても、触ってくる事はないのよ。今まで一度もね。私はピーの代わりにはなれないの。」
常には大人と肩を並べる少女がまるで子供のようにワタクシの腰にへばりついて心情を吐露しました。
「辛いのはシロがアナタに触れることじゃない。私がシロにとって触れたいと思う相手ではない事。シロがアナタに触れるのを見て、それを否でも実感するから……辛いんだわ。」
それからふっと自嘲の様な笑みを零しました。
「アンタがいうとおり私はシロに全てを賭けてるの。でもそれはシロの為じゃなくて自分の為。だから下らない感傷に浸る権利なんてないの。」
そう思うのに……そう言ってタツキさんは腕に力を込めて頭を更に押しつけました。
「……さすがにちょっとシンドイわ。大人になれば割り切れるかもしれないけど、今はダメ。だから丁度いい機会だし少し距離を置くのがいいのよ。」
ワタクシは押し黙りました。
そんなのは『逃げ』です。
常ならそう言いきった事でしょう。
しかしそれが事実だとしてもワタクシには言う権利があるのでしょうか。
自分の失恋から目を背け、草賀さんから逃げてこんなトコロまで来てしまったワタクシなどに……。