恋愛の神様


振られても尚捨てられない想い。
痛くてしかたないのに簡単に忘れられない人。
泣き叫んで地団太を踏んで、欲しいと思う相手。

そんなに想っているのに……想っているからこそ、迂闊に突進も出来ず、立ち往生です。


ワタクシは美弥さんに何と言ったのでしょう。

―――どん底にいるのに何を怖がっているんですか?

草賀さんの眼中にもないワタクシです。

いっそ正面に立ちあの女性の事を詳らかに聞き、ワタクシの思いをぶちまけて追い続けてみればイイのです。

その挙句に鬱陶しがられようが、嫌われようが、何もしなよりマシです。

………そう思っているのに、ダメです。

まるで勇気が湧いてきません。

これ以上痛い思いをするくらいなら、いっそ全てなかったような顔の逃亡者でいたいのです。






「あ、抜け駆け……」


不意に戸口からポツンと聞こえた呟きにワタクシは飛び跳ねました。

いつの間にやらハクトさんがお帰りです。

「お疲れ様」と言ってタツキさんがワタクシから腕を引きます。


「仕方ないな……タツキはなんだかんだ言って僕よりピーのお世話スキだもんねぇ。」

「……そんな事ないわよ。アンタが忙しいから私が代わりにやってるだけでしょ。」

「……そーかな。前も、ピーのために農家から無農薬ナッパとりよせたり、ハゲが出来てるって夜中に騒いで動物病院駆け込むしさ……。」


タツキさん、むっと口を尖らせます。

これは完全な照れ隠しでしょう。

タツキさんがブーブー文句を言いながらもピーさんを甲斐甲斐しく世話をしている姿が目に浮かびます。


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