恋愛の神様
少し距離があるとはいえ、正面の扉が開き私が佇んでいるのが目に入ってないはずはないのに、気にする様子もない。
その透明人間みたいな扱いに―――私は何故か安心感を覚えた。
この人にとって私はこの世界の一部。
赤く染まるこの世界そのもの。
そしてこの歌と同じもので構成されているんだわ。
溶け入りそうな陶酔感の中、私の心にとても硬い何かが生まれた。
否、それは最初からそこにあったもの。
それがふとした拍子に意識に浮上してきた。
この歌を手に入れたら―――この歌を手に入れた私なら、パパ達に一矢報いる事が出来るかもしれない。
何も出来ない女の子と侮っていた娘が、この歌でのし上がったら……。
いいえ……、当時は本気で仇討のつもりだったけれど、本当は私に興味を持ってくれるかもしれない、という期待だったかもしれない。
私を蔑にしてきた事を悔いて、重宝がってくれる。
そんな邪な期待と、単純にカレと接点が欲しいという欲求と―――
私の中はごちゃごちゃになった。
ともかく、行動しなきゃ!
目の前に立った私に男は初めて歌を止めた。
きょとんとした眼に見詰められて、心臓ごと爆発して粉微塵になりそうだった。
―――なんて綺麗な人。
脱色とは思えない白い髪に、赤い瞳。
柔らかな面差しはまるで世の中の憂いを知らぬように穏やかだ。
不思議な人。
カレが手に入ったら、私は世界が手に入ると確信した。
世界がどんなものか知らないけれど、私が欲しいと思ってるものは必ず手に入る。
私はカレに手を差し出した。
「一生後悔はさせないわ。だからアナタの全てを私に預けてついてきて。」