恋愛の神様
カレはとぼけた顔で私の顔と差し出された手をゆっくり交互に見詰めた。
そして歌を奏でていた時と同じように特別気負った様子もなく手すりから飛び降りてぴょこぴょこと私の後をついてきた。
それがシロを拾った時の話。
それから私は親を説得して、カレをプロダクション所属扱いで飼う事を承諾させた。
歌を習わせる間に、私は私で必死になってマネージャーとプロデューサーの仕事を覚えた。
仕事を覚える能力はあったけれど、シガラミやコネが絶対的な幅を利かせる世界で、子供の私はかなり不利だった。
無論、そこは父親の立場を傘にしたり、世話係の沢蟹を代役に立てたりとずるく立ち回った。
シロをスターに伸し上げると決めた以上、親の力を借りるのは死んでも嫌、などと子供染みた我儘を言う気なんてない。
使えるものなら何だって使ってやる。
そうして数年後、シロは瞬く間にトップにのし上がり不動の地位を築いた。
いつの間に情が移ったのだろう。
否、出合った時に既に私の心はシロに囚われていたに違いない。
ただ、好きだ、愛してると囁いて抱き合うような関係より、カレを守り、世話をして、歌を奏でてもらう事に私が生き甲斐を感じていただけで……。
無論、今だってそれに幸せを感じているけれど、それだけじゃ最近は胸が痛いのも事実。
長くいればいる程実感しなければならなくなった現実。
彼にとって私は恋をする存在ではないということ。
私の事を盲目的に信頼してくれても、欲望を覚える相手ではなかったというだけ。
カレに愛されるならいっそピーでもヨカッタと思うのに、私はピーになれない。
『綺麗な声……ステキな歌……』
その素直な想いを呑みこんで『ついてきて』と言った私はピーになる資格を永遠に失った。
自分の邪な要求を満たすためにカレを捕えた私。
そんな私に愛を説く資格なんてあるはずもない。