恋愛の神様
絶対この人、タツキさんがいなくなった途端、野良に戻って仕事にならないに決まってます。
ハクトさんを飼う事には百戦錬磨のタツキさんだからこそ、これまでの逃亡もこれくらいで食い止められたのです。
ワタクシはチラリとタツキさんに視線を向けました。
―――本当に宜しいんですか、タツキさん。
貴女が貴女の人生を丸ごと彼に賭けているように、彼は彼自身を丸ごと貴女に預けているんですよ?
貴女を信じて疑わないこの太平楽なペットを他人に易々と預けようなんて、飼い主として無責任すぎやしませんか?
「……かないわよ」
「ん?」
タツキさんはわなわなと拳を震わせて言いました。
「留学なんてしないって言ってんのよ!誰が行くもんですか!留学中にアンタに逃げられたんじゃ、私が今まで培ってきた業績がパーじゃない!!」
キッとハクトさんを睨みます。
「イイ事!?私の眼の黒いうちはトップの座から下ろさせやしないんだから!覚悟して歌いなさいよ!」
「………はぁい」
※
ワタクシ達をマンションまで送り届けたタツキさんは現場へと向かいました。穴を開けた仕事の関係者に頭を下げにです。
そのついでに会社へ寄って、パパさんに殴り込みを掛けるつもりのようです。
『あの無条件の信頼に対して、私の胸が痛いだなんだってセンチメンタルな感情で逃げだすなんてイイワケない……。アイツは約束通り私に全て預けてくれてんの。それに応えなきゃ、私間違ってるのよ。』
出がけにタツキさんはワタクシにそう言いました。
乙女ですもの。
恋で胸が潰れそうになることだって間違ってやしませんよ。
それでも、自分が傷つく事も恐れずに大切な者の為に立ちあがろうとするアナタはとても強くて立派でステキです。