恋愛の神様

突然の告白にきょとんと眼を見開いた河瀬さんは、徐にふんわりと微笑しました。

それは私に向けた人懐っこい笑みとはまるで違うものでした。


「じゃあ、お願いしよっかな。これからよろしく、根岸さん。」


空の彼方からキラー衛星に狙い撃たれた気分です……。





河瀬さんが取引でよくいらっしゃるのはマーケティング課。
そこで根岸さんと顔見知りになったようです。

根岸さんの派手な見た目に反して生真面目なトコロに河瀬さんは惹かれていたようで、根岸さんもまた、温和で落ち着いた河瀬さんに熱烈片思い中だったとか。


入り込む余地もありません。











生気も正気も削げ落ちた午後。

ワタクシはゾンビ状態で頼まれたコピーを黙々と続けておりました。


「よぉ。恋愛の神様。」


蓋を開けた拍子に後ろからドンッ、とド突かれ、ワタクシはコピー機に突っ伏しました。
次の瞬間、眩い光が炸裂。
倒れた拍子にスタートボタンを押してしまったようです。

ワタクシを倒した張本人―――草賀さんは、さすがに慌ててコピー機を止めました。


「マヂで屍だな、チィちゃん。」


草賀さんがふっと鼻で笑います。


「つか、すっげーバイタリティー。山田で記録タイかと思ったら、一足先に更新記録塗り替えやがって。さすがの俺も負けを認めてやる。」



草賀さん、実に愉しそうです。

通販にパンドラの箱が売られていたなら、迷わず注文いたしましょう。
もちろん草賀さん宛で着払いです。




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