恋愛の神様
一方的にどちらがどちらを詰る事でもないし、謝罪も違うだろう。
慰め合うモンでもないだろうし、勿論、愛し合う事も出来ない。
状況が落ち着けば、また欲しくなるんだろうか。
それともこのまま再熱する事もなく自然消滅か。
それすらも分からん。
分かんねーのに考える気すら起きない。
今はただ何も考えず温かな塊を抱きかかえてぼーっとしたいのに、その温もりが手元になくて……寒さに心まで折れてしまいそうで、堪える。
チィちゃん…………
今マジでどこにいんの?
白く霞む溜息を冷たい空気に放ちながら何気に目線を上げて、俺は目を見開いた。
教会の外周を囲う黒い鉄格子状の塀の向こうを女が一人猛然と駆けて行く。
―――ウソだろ、まさか………。
あんまり思い詰め過ぎて幻覚をみてるんじゃないかと己の正気を軽く疑う。
だが、見間違える筈なんかない。
「の……チィちゃん!!」
俺の叫び声に、一心不乱に前を向いて走っていた女は弾かれたようにコチラを見た。
途端、唐突な方向転換で鉄格子に突進した。
俺も叫んだ時には既に駆けだしていて、格子の間から手を命一杯伸ばした。
全力疾走に荒い息を吐き、崩れそうになっている女をとりあえず逃がさないように掴んだ。
ああ………ちゃんと手ごたえはある。
現実だ。