恋愛の神様


「わ、ワタクシだって努力はしたんです。田舎から出てきた時に一念発起してデパートで店員さんの薦めるがままに洋服と化粧品をしこたま買いました―――」


しかし、買った服を改めて着てみて、教えられたとおりの化粧を施してみたつもりで、完成した姿はもはや人目に晒せるものではありませんでした。

いや、試着した時から何となく違和感はありました。
しかし似合うと手放しで褒められて、これが都会のセンスなんだと納得したのです。


「オマエ………イイ鴨だなぁ。」

「仕方ないじゃないですか。センス皆無な田舎者が頼るとしたらプロフェッショナルな店員さん以外にないんですから。」


むっとして思わず食ってかかると、草賀さんは愉快そうに笑いながら「はいはい。」とワタクシの頭を撫でました。
まるっきりのコドモ扱いです。
余裕綽々の態度も逆鱗を逆撫でします。

完全に立腹モードでコピーに戻ったワタクシに、草賀さんは肩を竦めました。


「しゃーねーな。乗りかかった船だし。ちょっとだけ手貸してやっか。」


意味が分からずワタクシは首を傾げます。

草賀さんはふっと口元を緩めました。


「今回だけ特別に服の選び方くらいなら教えてやる。果敢な記録更新に敬意を表して、な。」


一言余計です。

でも。

草賀さんは持ちうる容姿同様、服や持ち物のセンスも格段に洗練されています。
女性とのお付き合いも豊富で、イイ女のファッションセンスにも精通しているでしょう。

一瞬にしてハンターの輝きを帯びたワタクシの双眸に草賀さんは返事を察したようです。
就業後、落ち合う場所と時間の設定をして、自分の課に帰って行きました。


草賀さんが立ち去るのと同時にワタクシはマッハの勢いでポケットの携帯を取り出しました。

明日は吉日、大吉!

占いサイトを見れば、『人生最良の日!』『恋愛運◎』『この日を逃したら後がない!』ということが軒並み書かれています。


これはひょっとするとひょっとするかもです。



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