恋愛の神様

明日は土曜日。

今日草賀さんにお洒落の極意を教えてもらったワタクシは、絶世の美少女の装いで街に繰り出します。

その時、ワタクシの容姿に虜になった男こそ、ワタクシの運命の相手なのです!

ワタクシの探す快楽の主が、以前会社で出会ったからと言って会社の人だとは限りません。
いえ、会社の人であったとしても会社外で再会し、恋愛の炎を燃え上がらせないと誰が断言したのでしょう。


これは何が何でも草賀さんに魔法を掛けていただかなくてはいけません。

シンデレラに出てくる魔女だって、カボチャを馬車にかえるというアクロバットな魔法が使えるのです。

草賀さんがワタクシを美女に仕立て上げることなど造作もないでしょう。


………たぶん。






ワタクシはフラレタ事などトカゲのしっぽのように切り捨て、浮かれ気分でデスクに戻りました。

すると、課長のデスクから絶叫が轟きました。


「ああーっ!!ど、どうしよう。すっかり忘れてました…!」


叫んだのはウチの課長ではありません。

課長のデスクの前には、営業課の若い男が一人。
青い顔で茫然自失の体です。

どうやら、とある仕事の件でウチの課長を訪れて打ち合わせをしていたらしいのですが、その最中に別件で仕上げなきゃならない書類の存在を思い出したようです。

言っちゃなんですが、抜けてます。



男性社員は、呆れ顔の課長―――馬場女史を置き去りに部屋を飛び出し、三分後には腕一杯の書類を抱えて駆け戻ってきました。

中央分離帯に置き去りにされた婆さんみたいにオロオロと周囲を見回している様を眺めていますと、バチッと目が合ってしまいました。



ものすごーく嫌な予感がします。




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