恋愛の神様



虎徹クンと別れて、帰路を一人で歩き始めた。

まだ早い時間で繁華街には人が出ている。

見上げれば白い息の向こうにイルミネーションでデコされた街路樹が煌めいていた。



八年の恋も終わる時は何とも呆気ない。


思わず笑いがこみ上げてきた。

最後まで物分かりの良い女を演じた自分に呆れてしまう。

どうせ最後だったんだからもっと修羅場を演じてやればよかったかしら。

虎徹クンも虎徹クンだ。

引きとめる素振りはおろか、動揺一つ見せなかった。

まるで私が口にしなかった全てを知っているかのように。
その上で私が別れ話を持ちかけたのだと知っていたかのように。

何も聞かず、何の言い訳もなく、ただ「分かった」。

レストランを出たトコロでお仕着せの挨拶をして、これから進む別々の道を暗示するように別れた。

お互い呼び止める事も未練がましく振り返る事もなく。


ああ。
本当に別れてしまったんだ。


改めて繰り返したその言葉に、今更その事実に気付いたように胸が軋んだ。

足は錘を付けたように鈍くなった。



もう、二度と彼と白熱抗議バトルをする事もない。

彼の優しい指に撫でられる事もない。

甘いキスも激しい愛撫ももう二度と感じる事はない。

仕事に熱中する彼に寂しさを感じる事も。

不意に見詰められて心をトキメかせることさえ




――――ナイんだわ……。


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