恋愛の神様


「最近、どう?…少し疲れてるみたいね。」

「まあな。アッチに行ってた分、仕事は山積みだからな。」


他愛無い近況報告はとても穏やかで、だからこそ二人の関係が終わった事をはっきりと感じた。

取り縋る程の未練も湧かず、亜子にも俺に対する未練など片平も見いだせない。

それを悲しいとも悔しいとも思えない。

話に区切りが付いて、亜子が改めて俺を見詰め微笑した。


「自分が酷い事をしたのは分かってるわ。…だけど、謝る気はないわよ。」


俺は頷いた。

自分が亜子に謝ってもらう立場じゃないのは分かっている。

亜子が虎徹を裏切ったのも、野山を傷つけたのも元はと言えば俺の所為だ。

俺が一番サイテーだ。


「でもね…………今までアリガトウ。」


続いた言葉に、初めてほんの少しだけ胸の奥が疼いた。

だけどそれはずっと昔の古傷が擽られるような、遠い感触。


今更だけど、亜子を好きだったのは嘘じゃなかったよ。

虎徹の存在を差っぴいても、な。

認めてほしい、振り向いてもらいたい、そう思える程に俺は亜子に憧れていた。

―――一緒にいてくれてアリガトウ

そんな言葉に、俺もだ、と言える程に。

キライになったわけじゃない。

ただこれ以上、先の未来を一緒に過ごす気にならないくらいに、気持ちに決定的な区切りが出来てしまった。

俺は勿論、たぶん亜子の方も。

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