恋愛の神様

別れを告げる亜子は、妙にさっぱりしていて、まるで初めて会った時みたいだ。

しっかりしていて、それでもどこか儚げで、キレイな女。

虎徹の横で憂いなく浮かべられていた微笑。

そもそも俺にはその笑顔を守ってやる力なんてなかったんだろうな。

俺は自分の力量も考えず、虎徹に対する意地だけで我儘に亜子を奪おうとして、失敗した。

亜子を大切にしてやってるつもりで、本当は苦しめていただけだ。

それでも亜子がアリガトウと言ってくれるならちょっとは救われる。



亜子がこれから虎徹とどうなるかは分からない。

それは二人の問題で俺が口を出す事でもない。

だけど、もう二度と俺と亜子が寄りを戻すことはないんだろう。

俺は勿論、この笑顔を浮かべられる亜子は多分、もう迷ったりしない。

それでもいつか―――恋人としてではなくとも良き理解者として分かり合える、きっと。





亜子と別れて清々しい気持ちで歩き出す。

だがそれも数メートルと行かないうちに、絶望に変わった。

階段脇の柱の陰に見覚えのあるシルエット。

相手が相手だったが故に素知らぬ顔で通り過ぎるわけにもいかず、そんな所へ隠れる羽目になったようだが……

最近じゃ避けてるのもあからさまに、廊下で出くわす事も少ないってのに。



何でだよ、すんげー間が悪くねっ!?

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