恋愛の神様


「……チィちゃん……」


躊躇いがちに声をかけると野山はビクリと肩を震わした。

振り返ったその顔に少々面食らう。

多少引きつっているながらも、野山は笑顔を向けてきた。


「な、何故か、お久しぶりなカンジですね、草賀さん。」

「ん……ああ…」


俺は戸惑った。

こないだは再会早早抱き潰されて、今は今で事もあろうか亜子と話している所を目撃したくせになんだってコイツはこんなフツーを装ってやがんだ。

野山が平静であればある程、違和感が募る。

そして俺の中の不安も。


「や、あのさ……今のは…」


奇妙な焦りに駆られて、無様ながらに言い訳を試みた。

だが……


「今の?今の……何の事でしょう?」


おい!
不自然な程の潔い一刀両断かよ!?


「今の見てたろ?俺が亜子と―――」

「さぁ、ワタクシ何も見ておりませんが。」


きっぱりと言い切られ途方に暮れた。

途方に暮れるってか、本気で焦る。

そいやコイツ、フラレルと直ぐ見切りをつけて次の恋に驀進するタイプだったよな。

おーい………俺、既に見限られたのかよ?

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