恋愛の神様
怪訝に問い返す俺に野山は真っすぐ視線を向けた。
「草賀さん、アノ女性とは何か理由があって上手くいってないんじゃないですか?ワタクシとの関係は気安いのかもしれませんが、本当の恋から逃げ出してはいけません。」
「あの女性って……亜子?ちょっと待て、アイツとはもう―――」
「諦めてはダメです。苦しくてもそれが本当の恋なら頑張って下さい。ワタクシに寄り道している場合ではありません。」
「ちょっと待てって!黙ってコッチの話も聞けって―――」
俺が亜子と付き合っていると誤解し、身を引こうと思ったらしい事は分かった。
誤解をさっさと解きたかったのは山々だが、俺は別の事が気になった。
「………おい、チィちゃん、オマエなんか顔色悪くねぇか……?」
光の加減か?
否、肌は白を通り越して青ざめて見える。
野山は何かに取り憑かれてるかのように危機迫った顔で続けた。
「本気の恋なら諦めないで下さい!そうしたら必ずや成就しますから!」
「チィちゃん!」
「何と言ってもワタクシ恋愛の―――」
俺の声も無視して決め台詞を言いきろうとした矢先、野山は「う…」と小さく呻いて動きを止めた。
腕に抱えていたコピーを床に撒き散らし、腹を抱えて蹲る。
「っ、チィちゃん!!」
背筋に冷たいモノが奔った。
不治の病なんて、シロウサギが野山を引きとめるための方便だと思っていたが、……まさか本当だったとか?