恋愛の神様
「……なぁ、オマエのそれってさ、まさか…」
戸惑いがちのセリフに野山はゆるゆると顔を向けた。
は?まさか。と言いたげな顔は寝耳に水というかハトが豆鉄砲と言った風情で、セリフの先を推測しつつ、まるで肯定には至らないような…。
それでも内容を理解したらしい途端、その顔は大きく強張った。
止める隙もあらばこそ、俺をすり抜けトイレを飛び出していく。
「あ、おいっ!チィちゃん!」
俺も慌てて外へ出たが、既に野山の姿は遠のいていて、俺は追う事もなくその場に立ち尽くした。
俺がパソコンならフリーズ状態……さすがにカルチャーショック。
いや、身に覚えがないとは言わない。
寧ろあり過ぎる。
それってまさか
―――そういうこと、だよな?
その先にあるはずの現実に思い至った瞬間から、俺の頭の中は意志とは無関係に目まぐるしく動き出した。
後で思えばこの時の俺はかなりテンパっていたのだろう。
いや、恥ずかしくて思い返したくもないが……。
やらなきゃいけない事を全て洗い出し、優先順位を付けて行動開始。
俺はさっそく足元に散らばる書類を手際よく集めた。
この時俺はある方向に真っすぐベクトルを合わせて突き進んでいた。
それ以外―――まるで逆の目的地なんて考えもしなかった。
どうしてそんな呆気ない程簡単に決意が固まったのか―――自覚するのはもう少し後だ。
書類を手に立ちあがり、天井を見上げる。
―――色々決着を付けるにはいい機会かもな。
俺は覚悟を決めて携帯を取り出した。