恋愛の神様
ワタクシはまた学習能力も乏しく仕事を放り投げて外へ飛び出してしまいました。
身体が冷えてくると、あまりのパニックに忘れかけていたお腹の痛みが戻ってきました。
この状況はヤバいんじゃないでしょうか。
産む決意なんて到底出来ませんが、流産なんて更に怖いじゃありませんか。
不安に駆りたてられながらどこへともなく歩いていたワタクシの目にそれは救いの光のように飛び込んできました。
ワタクシは電灯に吸い寄せられる蛾のようにフラフラとその見覚えのある白い制服が大量に排出される門へと近づきました。
ココ一番のチャンスを外さないワタクシです。
なんともイイタイミングで見知った顔が向こうから歩いてくるではありませんか。
余念なく携帯を確認していた目線が導かれるように持ち上がり、ワタクシを確認するなり驚いたように見開かれました。
「は?ピー?いきなり一体なんだってアンタはこんなトコロへ現れたの……って!ちょっと、いきなり何で泣くのよ!!」
「た、タツキさぁぁぁん……!」
傲岸不遜なタツキさんの顔を見た途端、急に安心して、どっと涙が溢れました。
「イイ歳の大人が高校の門前で仁王立ちで待ち構える姿もどうかと思うけど、いきなり号泣って……威厳もへったくれもないわね。」
タツキさんは呆れ果てたように冷たく言い放ちますが、縋りついたワタクシを払いのける事もなく力強く抱きしめてくれるのです。
丁度その時、背後にバンが停まって見慣れた顔が薄く開いたドアからひょっこり覗きました。
「タ~ツキ、迎えにきたヨ……って、あれー?ピー?……わぁ、帰巣本能で戻ってきたんだねー、エライエライ…」
相変わらず抑揚も乏しく喜ぶハクトさん。
タツキさんは無慈悲にその顔を車に押し込め、次いでワタクシも押し込めました。
「こんなところで騒がれたら堪らないわ。沢蟹さん、さっさと出て頂戴。」
最後にタツキさんを乗せて、車は恙無く走りだしました。