恋愛の神様
「ああ……。その前にちょっと別の話したいんだが…」
そう言って、零於はいつになく真っすぐに俺を見据えてきた。
ほんの少し躊躇うようにしてストレートに切り込む。
「なぁ…アンタは何で俺なんか守ったんだ?」
なぞなぞみたいな問いかけ……
だけど、その意味は容易に知れて、俺は肩を竦めた。
口止めしといたのに。
鷹子さんめ……しゃべったな。
これこそ今更蒸し返すまでもない瑣末な過去だ。
零於はほんの少し辛そうに目を細めた。
「俺はアンタが誘拐された事だって知らなかった。」
俺が田貫一派の下っ端のチンピラみたいなのに誘拐されたのはまだ学生の頃。
あの時、奴等は下卑た笑いを零しながら言っていた。
『将来、田貫夫人の勢力の邪魔になるような異分子は片っ端から潰してやる』……と。
「俺を突っぱねて、天下取り宣言したのはその後なんだな。俺や巳紅を守るためにアンタは自分が矢面に立ったんだ。」
俺が零於を抑え付けておけば、田貫一派も態々自分の手を汚してまでして零於に危害を加えたりはしないだろう。
その読みは確かに正しく、奴等の標的は俺に絞られた。
無論、俺もやられっぱなしでいるはずもなく…
そもそも俺を誘拐したバカ共は田貫一派でも末端のチンピラで、田貫夫人の意向もなく勇み足で事を起こしたらしい。
俺が田貫夫人にチクッてすぐ、ソイツ等はあっけなく見限られたようだ。
俺がチクッたのも暗々裏なら、ソイツ等が切り捨てられたのも闇中の話。
そしてこの話は公にされることなく闇に埋もれた。
さすが情報通と言われていた鷹子さんは、どこで調べたものかちゃっかり知っていたけどな。