恋愛の神様
ワタクシ達は喫茶店を出ました。向かった先は立体駐車場です。
「草賀さん、実はマイカー通勤でしたか?」
シルバーの落ち着いたセダンタイプ。
右ハンドルとは言えこれ外国車だったはずです。
草賀さんはキーを取り出しロックを解除しました。
「いんや。これは用があって家から借りたヤツ。親父、普段車使わねーヒトだから、たまにはエンジンかけてやらんとな。そろそろ返しに行かんとと思ってたから丁度イイ。ついでに返してくるぞ。」
助手席に乗り込むと、草賀さんが滑らかに車を発進させました。
シンプルですがさすが高級車と言わんばかりに上品な内装で仕立てられております。
サス、柔らかくて乗り心地サイコウです。
滑るような乗り心地にうっとりしている間に車はちょっとした帰宅ラッシュを超え、市を超えて隣の市へ。
郊外のとある住宅地の一郭に辿り着きました。
二つ空いている駐車スペースの一つに車を入れます。
まだ新しい瀟洒な一軒家のインタフォンを草賀さんが押します。
程なくして中からオッサンが出てきました。
物静かそうな、悪く言えば大人しそうな、聡明な面差しのオッサンです。
ドア越しの草賀さんを見て、小さな目を瞬かせ、笑顔を見せます。
「やぁ。いらっしゃい。ああ、今、鷹子さん、買い物に行ってるんだ。」
「あぁ、別にオフクロはどうでもいいや。ほら、カギ。車サンキューな。そんで、今日は巳紅に用があんだ。つってもまだアイツ帰ってねーんだろうから、先上がらせてもらってもいいか。」
ワタクシは後ろから草賀さんたちのやり取りを見詰め、僅かに首を傾げました。
オッサンの微笑がほんの少し陰ります。
「ここは君の家なんだからいいに決まってるさ。」
草賀さんがシマッタという顔をして、慌てて笑顔を取り繕います。
「や。悪い。そーいうつもりじゃなかったんだけど。」
「……あ。そ、そうだよね。いや、私こそ詰まらない事を気にし過ぎた。ゴメン。」