恋愛の神様
打算で作りあげられた偽物笑顔の中で、彼等の笑顔だけは本物だった。
ガキなんて不慣れで、性格上愛相が良い訳でもないし、多分、相手にしてみればツマラナイヤツだったと思うのだが、どういうわけか二人は俺によく懐いた。
だから決めたんだ。
何があってもコイツ等は俺が守るんだ…………と。
零於を傷つけたことも、亜子を寂しがらせたことも分かっている。
それでも生憎と俺は柔軟に進路を変えられる程の器用は持ち合わせちゃいないんだ。
俺の決断が自己満足だと知っていても、初志貫徹。
そして躍起になって、ようやくテッペンとは言わないまでも、田貫一派に簡単に潰されない地位まで昇りつめた。
俺は零於に視線を戻した。
「……そろそろ上がって来い。俺もココまできたら仕事はぼちぼちにして、これまで後回しにしてきたプライベートの諸々にも目を向けたいからな。」
もう俺が守らなくても歩いていけるくらいには成長したんだろ?
それでも万が一の時には俺も支えてやれるから。
俺も会社でのし上がるのはもうキリにしてそろそろ自分の為に時間を使いたいんだよ。
零於は頷くように一つ、ゆっくりと瞬きした。
二度と戻らないと思っていた兄弟の穏やかな時間。
ワインを傾けながら、徐に思いだした。
「用ってのはそれだけ、じゃないんだろ?」
冒頭で『その前に』と言っていた。
この話がメインじゃないとするなら、何なんだ?
普段、俺はあまり動じないタイプなのだが、この時ばかりはさすがに驚いた。