恋愛の神様
帰ってちゃ悪いかよ、と顎を突きあげる俺に、巳紅は大きな目をぐるっと回した。
「へーえ?兄貴なの、あの女物の靴。この家に女連れ込むなんて珍しいじゃない。」
「ああ。それは私も気になった。」
巳紅とオフクロが揃って興味津津に身を乗り出す。
俺は苦笑で溜息を吐いた。
「よせやい。ありゃ、社内を神出鬼没に飛び回ってる野良の青い小鳥。」
クエスチョンマークを炸裂させる二人。
俺は自分が言ったことが可笑しくて、ついくくっと笑った。
「……ジョーダンだ。単なる後輩。あまりにセンス悪くて成り行き上、俺がお節介焼くハメになったんだ。というわけで巳紅、ちょっくら協力してくれ。」
「ハァ?」
何で私が、と巳紅が目くじらを立てる。
他の女ならいざ知らず、妹には当たり前だが俺の魅力などまるで効かず、扱い難いったらない。
巳紅は仁王立ちに俺を睨んでいたが、暫くしてまあいいかと怒らせていた肩を下ろした。
「貸し一つよ。今度たっかい物、奢らせてやるんだから。」
ふんっと鼻で息を吐いて、ズカズカと二階へ上がっていく。
ホント、妹ってのは扱いにくい。
てか、巳紅が輪をかけて扱いにくいタイプなのか。
「なによ。本当に彼女じゃないわけ?」
「違うって言ってんだろ」
未だしつこく追及してくるオフクロをそっけなくやり過ごす。
家を揺るがす絶叫が轟いたのはその直後だ。
「ぎ・やぁああああああああああああ――――――――。」