恋愛の神様
巳紅が高飛車に顎を聳やかして、掌をずいっと付きだした。
「チュニックは私が中学ン時に着てたヤツだし、もう着れないからあげる。後は総額五万。早急に支払って頂戴ね。」
俺と野山は揃って顔を引きつらせた。
やはり俺の妹。
転んでもただでは起きない。
「おまえなー、どうせこれオマエのお古だろ?」
「だから格安にしてやってんでしょー。原価なら十万は下らないわよっ。」
俺は一度押し黙り、改まった顔で言った。
「コイツ実は恋愛の神様なんだぜ?親切にして罰は当たらないと思うがな。」
真面目に聞いていた巳紅は、徐にニッコリと笑顔を浮かべた。
「そんな戯言どーでもいいわ。今回は兄貴の依頼だから割って一人頭二万五千円。忘れないでね。」
やれやれ。
歩き出そうとして直ぐ野山が俺の背中に頭突きを食らわした。
すまんな。バリアフリーじゃなくて……
って、
たかが数センチの段差で躓いてんじゃねーよ!
「ず、ずびばぜんっ。眼鏡ないとまるで見えなくて。」
「ったくしかたねーやっちゃなー……」
鼻を押さえてフガフガ言ってる野山をひょいっと肩に担ぎあげる。
「ああああのっ!」
「我慢しろ。ブーツ履いたまま家の中歩かせたかねーんだよ。玄関行ったら降ろしてやっから。」
俺の正論に野山は口を噤む。
結局野山はその格好で見送りに出てきた両親と、残念だ。また来てくださいね。ええ、また機会があれば是非。などという挨拶を交わしていた。
突っ込まないウチの親もどーかと思うが、ここは礼儀とばかりに恙無く挨拶をしている野山も野山だ。
コイツ等、意外と気が合うんだろうか……。