恋愛の神様
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帰宅を考慮して会社近くの繁華街に行くことにして市電に乗り込んだ。
帰宅途中のサラリーマンや学生がちらほらいるだけの程良い乗車率。
「ところで。草賀さんはお父さんと何か確執でもおありなんですか?」
並んで座る女はいとも容易くド真ん中を突いてきた。
てか、コイツ見た目より鋭いな。
「何で?」
「和気藹藹と見えますが、お互いにどことなく他人行儀というかよそよそしいので。」
俺は自嘲気味に笑って肩を竦めた。
「別に確執なんざねーけど。……オマエの言うとおり他人だから、な。」
「え?」
「戸籍上は親子だけど、血は繋がってない。俺も巳紅も前の男の子供なんだ。」
言いながら今度こそ本気で溜息が洩れた。
「別に結婚に反対してたわけじゃないし心から幸せになってほしいと思うワケ―――だけど問題は俺と親父のカンケー?今更親父とキャッチボールって歳でもねーし、今一距離が掴みにくいてか。」
互いに上手くやっていきたいと思うからこそ、互いに腫れものに触るみたいな態度になってしまう。
当たり障りなくやろうと思えば思うほど、営業っぽくなる自分が分かって、居心地が悪くなる。
伊熊とはほとんど普通の親子らしいことをした記憶がない。
会うのは大抵、社長の顔をした時だけだった。
だから父親に関してはほとんどビギナーだ。
その上、再婚が決まって早々に俺は通学の都合で別で暮らしたから、余計距離が出来たのだろう。
巳紅はそこんところ適当にやっている。
物怖じしない性格はもちろんだが異性の上、一緒に暮らしていた分、上手く馴染んでいる。
そこんところ同性ってのは始末に悪い。
ベタベタ甘えればいいってもんじゃねーし。