恋愛の神様
冬も差し迫った面接の日―――ワタクシはすこぶるつきに体調を崩しておりました。
おのぼりさん気分で新幹線の中ではしゃいで弁当を二つ食べ、緊張の為、ジュースをがぶ飲みしましたが、きっとその所為ではないですよ。
ともかく気分が悪く、朦朧としたまま面接会場を目指していたワタクシは、いつの間にやらうっかりラビリンスに迷い込んだアリスちゃんになっておりました。
平たく言ってしまうと迷子です。
時間は刻一刻と迫っています。
焦る気持ちと同時にあーなんかどーでもいいかも……という諦観の気持ちも湧いてきました。
それほど体調が芳しくなかったのです。
その時です。
一人の男が声をかけてきました。
「君、どこの誰?こんなところで何やってンの?」
不調マックスのワタクシは顔も上げず、面接であり、迷子である事を端的に説明しました。
すると男は優しくワタクシの手を引いて歩き出しました。
多分、面接会場へ連れて行ってくれるのでしょう。
都会人を見たら悪者だと思え!という偏見を見直すべきだ、とワタクシは反省しました。
確かにそれは見直すべき偏見かもしれませんが、男が悪者であったことは間違いなかったようです。
連れ込まれたのは面接会場とは思えない一室。
こぢんまりとした空間に長机が数個配置されただけの簡素な部屋で、ブラインドが敷かれたまま薄暗く、まるで人の気配はありません。
えーと……
偶発的アクシデントに見舞われた時の対応が試験の趣旨なのでしょうか?
ボケっとしているといきなり後ろから抱きすくめられました。
長机に押さえつけられ、ようやく危機を察します。
「あ…あの……」
どう考えてもオカシイだろ!?と思いつつ、まだ半信半疑で顔を上げました。
その拍子に眼鏡が取られ、ワタクシの視界は一瞬にしてぼやけました。
「シ―。大人しく出来たら満足させてやっから」
そんなセリフの直後唇が塞がれました。