恋愛の神様
視線を感じたらしい草賀さんは顔をあげました。
「チィちゃんって、マジで不思議ちゃんだなー。ロマンチストかと思えば、徹底したリアリスト?しかも、意外と行動派。何その古株デカ顔負けの調査能力。」
「多いに見直して下さって結構ですよ。」
ふっと草賀さんが目元を緩めます。
「おう。プレゼンも凄かったぞ。あいつ等相手に、一歩も怯まず一刀両断たぁ恐れ入ったわ。ガンバッタな。」
思わぬ褒め言葉にワタクシの顔はへらっと緩みました。
「にしても、記憶力もイイな。オマエ、あの資料の内容全部覚えてたのか?」
「誰があの資料を清書したとお思いで?あのクマ語を理解し、纏めるために、何度も資料を熟読したんですよ?」
「クマ…………や、言いたいことは分かるが、あの人、熊じゃなくて鹿だから。鹿島五月と書いてカシマ メイ、な。」
「メイ、部長……」
ふわっと脳裏に朝の全開の笑顔が浮かびました。
五月………確かに五月晴れが似合うかもしれません。
「しかし、おっそろしく似合いませんね。鹿さんというのも、名前全体のイメージとも……」
「まーな。うちら、鹿島部長のメイは迷惑のメイだって言ってっけどな。」
それは同感です。
時計を覗いて、それぞれ事務所へ戻ることにしました。
歩き出してすぐ草賀さんが思いだしたように振り返りました。
「そうだ。巳紅から伝言。喧嘩してたカレシと仲直り出来たから気分の良さに免じてこないだの服はチャラだとよ。全部やるっつってたからあり難く貰っとけ。」
ヨッシャ!
丸儲け!
ワタクシ内心でガッツポーズです。
「たまには恋愛の神様も役に立つもんだ。」
喜ぶワタクシに、草賀さんは茶化すように言って、肩越しに手を振って去って行きました。