恋愛の神様
今まさに、大根をあーんと食べようとしていた野山がその格好のまま固まった。
大根が箸から皿の上へべしゃっと落ちる。
途端に野山は慌てた。
「お、お早いオカエリでっ!えと、これは大根煮るのに時間がかかって……でもっ、キッチンも舐めるように綺麗にして、食べ物も残らず平らげて、草賀さんが来るまでには証拠隠滅しようと思ったんですよぅ。間違っても、食事を作って甲斐甲斐しく待つ彼女を演じようとしたワケではなくてです!これは絶対!」
ホラまた自らセフレと断言するような言い方をする。
それはともかく―――
「オマエ、ズルイだろ!何一人で美味そうなもん食おうとしてんだっ。」
俺の激昂に野山は「へ?」と首を傾げた。
「ズルイ、俺にも食わせろ。」
「……構いませんけど。草賀さん、夕食取ったんじゃないんですか?」
「アァ?パンとコーヒー?しかも夕方だし、全然足りねーし。」
上着を脱ぎ捨てて、ローテーブルの向いに腰を下ろす。
時間がかかったというブリ大根に大根葉とシラスとゴマなんかが混ぜ込まれたご飯。
大根の味噌汁。
……大根使い切りレシピだな。
野山はいそいそと箸を用意し、次いで自分のエコバックからタッパを取り出した。
ブリ大根の残りと、オニギリになった飯。
「…って、オマエ、マヂで徹底的に証拠隠滅かよ…」
「はぁ、まぁ……。どうぞ差し上げますので、これまでチマチマ使いこんだ光熱費はチャラにして下さい。」
オマエ、気にするトコロ、ズレてる。