恋愛の神様
「んー、美味い。久しぶりに家庭料理。生き返る。てか、チィちゃん意外と料理上手いね。」
チマチマ使いこんだという光熱費で出来た料理を食べ、俺は久しぶりにマジで上機嫌だ。
ブリ大根とか若い子のレシピじゃねーし。
それが甘辛くしっかり味が染み込んでいるのも中々すげーぞ。
「へへ、ありがとうございます。料理は一人暮らしを始めて死ぬ気でマスターしましたもの。虚しい食生活に耐えられなくて…。それより草賀さんがこの手の料理が苦手じゃなかった方が意外です。」
何気に視線が向かうのは箸の先。
ブリのアラ―――アラってのは、身を切りだした後に残る骨の部分。
ともかく食べづらいけど、器用に身だけを剥がして食べる。
「お上手です。食べ慣れてますよね。」
「つか、切り身じゃなくてこれ選ぶ辺りチィちゃんも相当だと思うけど?」
「ワタクシの田舎ではこれがフツーなんですよっ。なのにこの辺りのスーパーでは探すのに一苦労ですね。しかし骨から染み出す旨味は外せません。」
「ウチ、オフクロが仕事で忙しい人だったけど、ちゃんと飯用意してくれてたからなぁ……。温めて食べなさいっての、大体煮物系。ガキの頃はイヤでさー、よくマックとか弁当とか買い食いした。」
「ヒドイですね。」
「まーな。ま、今は逆に食いてぇなと思っても、実家までわざわざ行くのもなんだし?」
当たり前みたいにそんな話をしている事に気づいて、今更ちょっとだけ躊躇う。
別に隠すような話でもないけど、あえて他でしたこともないような話。
俺って、野山相手には抜けちゃうんだよなぁ…。