奏 -かなで-

・・・・・


…と、数人の人が集まっているような場所があるのが見えた。会社帰りや学校帰りの格好だから、きっと私と同じ寄り道だろう。

音をたよりに、足は自然とその場所へ近づいていく。






…あ。

歌が終わってしまった…





…と思ったのと同時に、

「……!」


顔をあげたその人と目が合った。





彼の パーマがかった ふわふわの黒髪が、
湿った弱々しい風に揺れる。


あの甘い声から想像した雰囲気よりは
少しだけ大人っぽかった。


そのせいか、さっきまで必死に探していたはずなのに、
目があった瞬間 どうしていいか分からずに立ち止まってしまう。





彼の歌をきいた人達は、曲が終わるとパラパラと去っていく。

人通りの少ない駅裏は 静かで、
駅の方から、ざわざわと 人や車の音がきこえてくる。

それに背を向けて座る彼は、どんよりとした今の空がなんとなく似合ってしまうような雰囲気だった。
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