奏 -かなで-
しばらく近よらず 離れず、遠くから眺めていると、
彼が次の曲をうたうようだった。
どうしようかとなにげなく横を向いたとき、
「おいで。」
彼の声だった。
遠くからでも 通る甘い声。
また彼と目が合う。
彼の微笑んだ顔は、目付きが悪いせいか、それとも日の暮れかけた曇天のせいか、少し妖艶だ。
自分の心臓がばくばくと音をたてているのは、そのせいでもあった。
彼の不思議な雰囲気に飲み込まれていく感覚。