奏 -かなで-
「どんな歌が好き?」
唐突にそう聞かれ、頭を必死にめぐらせる。
「あっ。えっと…
えど…しーらん…。
…って、あの…。」
大人な彼を目の前にして、最近きいた海外シンガーの名前をあげる。正直、知っている歌なんて一曲しかなくて、それも偶然出会った曲だから題名なんてものも分からなかった。
あたふたととりつくろう私をみて、
くすくすと彼が笑う。そんな姿も絵になった。
「…エド・シーランか、渋いね。」
さっき歌っていた曲が最近のヒットチャートだったから、
彩としずくがよくきいている流行りの邦ロックミュージシャンの名前でも言えばよかったけど、
彼の甘い声で思い出したのは、あの英語の響きとメロディーだった。
「あの…
歌ってほしい曲があって…。
…題名は…分からないけど…。」
あなたの声に合う曲、なんて…。
少しだけ考えるようなそぶりをして、再びギターをかかえる。
彼がおもむろにアコースティックギターの弦を指ではじいた。
ぽーん ぽーん…
覚えのあるメロディーがきこえた。