君と奏でるノクターン
プロローグ
日々の忙しさ、1日の疲れにかまけて、つい君へのメールを送りそびれてしまう。


心を許し合える友もまだいない。


毎日がただ、漠然と流れるように過ぎていく。


上っ面の会話、心のこもらない言葉や挨拶。


空は青く晴れているのに……。

世界は灰色に塗り潰されている。

訳のわからない苛立ちと不安、虚しさで胸がいっぱいになる。


大学の近くで「モルダウ」に、よく似たカフェをみつけたんだ。


そんな些細なことが、妙に嬉しくて1曲弾いてみて、店内を見回すけれど、君はいない。


君と弾いた「愛の挨拶」が思い出されて……。


君に「追いかけてこい」なんて偉そうに言った自分の言葉が、なんだか恥ずかしくなる。


モーツァルトやシューベルトを生んだ国。
彼らが音楽を学び育み、息づいていた街。


今日は街頭でシューベルトの「アヴェ·マリア」を、弾いてみようと思う。


心の中を見透かされそうで、送信できないメール、打てないメール。


君は今、何を弾いてる?
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