君と奏でるノクターン
ミヒャエルは強引に詩月の腕をとり、歩き出す。


「手を放せ。1人で歩ける」


「逃げられちゃ敵わない」


「……ガキみたいに言うな」


「ガキみたいな顔してる、体格も大学生には見えない」


「君がフケてるんだ」


「言うね~」


――ミヒャエル、こいつといると調子が狂う


詩月はすっかり、ミヒャエルのペースにはまっていることが癪に障る。


「ここだ。肉の燻製とか絶品なんだ」


「昼間から肉の燻製なんて……」


「まあまあ、食えばわかる」

ミヒャエルは、抵抗する詩月を無理矢理、店に押し込む。


音、音、音――音の洪水。

打楽器、管楽器。ピアノ、アコーディオン、歌声。

あらゆる音が溢れている。

カウンターから客に向かって話すマスターの声。

客同士の話し声、食器の音、調理の音と匂い、煙草の紫煙、酒の匂い。

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