君と奏でるノクターン
歩きながら、調弦を始めた詩月。


話しかけようとしている客の目が、詩月が何を始めるのか、興味深く見守っている。


――この程度の騒音なら1曲弾けば惹き付けられる


詩月は鳴り響く楽器の音や歌の賑やかさに、調子を合わせ、ヴァイオリンを弾く。


「粋だね~、クラシックかい!?」


「お堅い音は弾きっこなしだぜ」


――わかってる

詩月は爽やかな笑顔を作る。


――伊達に街頭演奏をしているわけじゃない。
即興演奏は嫌いじゃない


詩月は様々楽器の音を聞き分けながら、ヴァイオリンを奏でる。


――あいつ、やるじゃないか


ミヒャエルはカウンターで、注文した肉の燻製と黒パン、チーズやトマトの皿が出来上がるのを待ちながら、詩月の様子を窺っている。


詩月は、話しかけようと構えている客や野次を飛ばす客の目と耳と口を、ものの3分も経たない内に、ヴァイオリンの音色に従えさせる。


< 105 / 249 >

この作品をシェア

pagetop