君と奏でるノクターン
店に入ってきた時には、外野だった詩月が、いつの間にか音の洪水の中心で、主導権を握っている。


――大した度胸と実力だ


「ミヒャエル、何者だい!?」


「ケルントナー通りで今、評判のヴァイオリニストさ」


「……あれが噂のヴァイオリン王子か!?」


「あんなに華奢な体で、ずいぶんパンチのある音を出すのね」


「ピアニスト志望だなんて信じられるかい!?」

ミヒャエルは誰に言うともなく訊ねる。


「ピアノはもっと凄いって!?」


「アイツは差しで、周桜宗月と弾きたいそうだ」


「正気か!?」

店の壁には数枚、周桜宗月のコンサートポスターが貼ってある。


「ミヒャエル、上がったよ」

ミヒャエルは燻製やトマトなどを乗せたトレーと、飲み物を席へ運ぶ。


「詩月、即興はお手の物だな。さすがはケルントナー通りのヴァイオリン王子と呼ばれるだけある」


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