君と奏でるノクターン
詩月はピクリともしない。
ヴァイオリン演奏に集中している。


――凄い集中力だな


ミヒャエルの目が射るように、詩月を見つめる。

沸々とこみ上げてくる焦りと嫉妬心。

ミヒャエルはトレーをテーブルに置き、ピアノ奏者の元へ向かう。

ピアノ奏者の肩を叩き、そっと耳打ちをする。


ミヒャエルの指示で、ピアノ奏者がショパンを奏でる。

詩月の耳に、付け焼き刃の素人に毛が生えたような演奏が微かに届く。

拙いピアノ演奏に、詩月の目が輝きを増す。


――ショパン「エチュード第23番イ短調25ー11番「木枯し」


「ヘイ、周桜詩月。お前なら、どう弾くんだ!?」

ミヒャエルが詩月に向かって叫ぶ。

詩月のヴァイオリンを弾く指が止まり、碧い瞳がミヒャエルを通り越し、ピアノ奏者に向けられる。


「周桜」の名に店内が凍りつく。


ピアノ奏者が弾いたのは4小節目まで。


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