君と奏でるノクターン
「すみません。お嬢さん、ピアノを弾かせてもらえますか?」

ピアノ奏者は詩月の大学生とは思えない華奢さと、端正な顔、掠れ気味の細い声に、頬を染める。


「4小節目までしか弾けないの。だって『木枯し』ってエチュードの中でも屈指の難曲ですもの。指が持たないわ」


「確かに全力疾走の曲だ」


「あ……このピアノ数ヶ所、音が狂ってるわよ」


「ありがとう。上手く調整して弾いてみる」

詩月は動揺することなく、微笑む。

ピアノ奏者は不安そうに立ち上がる。


詩月は席に着くなり、鍵盤を勢いよく、一気に端から端まで鳴らす。

1音も漏らすことなく滑るように指を走らせ、納得したように「Kein Problem(問題ない)」と呟く。


ゆっくりとした主旋律のイントロダクションからの第1主題。


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