君と奏でるノクターン
正直に言えば、可もなく不可もない。
つまらない演奏だったと詩月は思ったが、そこは口に出さず拍手する。

静かに、席を立ちピアノに向かう。

ドビュッシーが「ピアノ音楽は、ベヒシュタインのためだけに書かれるべきだ」と言う言葉を残しているピアノ。


詩月が、女子学生の座席後ろを通り過ぎる。


ふわり優しい香りに誘われ、女子学生は後ろを振り返る。


透明感のある白い肌、淡い茶色の軟らかそうな髪。

碧みを帯びた瞳、薄紅を引いたような形の良い唇。


「あ……」

頬を染め、唖然としながらも目が詩月の姿を追っている。


「……彼、モーツァルトを弾いた……?」


思わず言葉が漏れる。


女子学生は、詩月の流れるような優雅な動き、仕草の1つ1つに目が離せない。


詩月はピアノの前で立ち止まり、ピアノの蓋を開ける。

ゆっくりと鍵盤に指を滑らせ、音を確かめる。

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