君と奏でるノクターン
詩月の指が、自分の指の半分の太さもないことを知っている。

薬指と小指は、スリムサイズの煙草よりも細い。

少し力を加え、へし折るなど容易いほど華奢な指。

それに、ミヒャエルは詩月の指の爪が、チアノーゼで赤紫色に変色していることも知っている。


――あのオンボロピアノで「木枯し」を……あの指で


ピアノ奏者はピアノの傍らで、詩月の演奏を間近に見ながら、言葉を失っている。

顔面蒼白になり、見た目にもわかるほど震えている。

「あのピアノを初めて弾いて、腰を抜かすほどの演奏をしたピアニストを1人、知っている」


目深にハンティング帽子をかぶった紳士が、カウンター席で珈琲を飲んでいる。


「誰だよ、それ!?」


「聞いて驚くなかれ。ウィーン大学時代の『周桜宗月』だよ」

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