君と奏でるノクターン
若い男は「そう言う貴方は何者ですか?」憮然として訊ねる。


「エィリッヒ、いいのかい!? 宗月は親友だろう」

マスターがカウンターから、穏やかに言う。


「宗月は、もっと荒削りだった。ったく……レッスンでも、こんな演奏をすれば、声を荒げて叱責などしないのに」

若い男が詩月と紳士を交互に見つめる。


「えっ!? 貴方の弟子?」


「詩月は演奏にムラがある。気分が乗らないと、あからさまに心此処に有らずの素っ気ない演奏をする」

マスターがカラカラと笑う。

若い男は目を白黒させる。


「あの青年、なかなか粋な計らいをする。詩月にもあーいう友人がいるんだな」

エィリッヒはミヒャエルが、詩月のピアノ演奏を食い入るように聴いている姿に目をすがめる。

窓際の席。
ミヒャエルの表情は、逆光でカウンター席からは見えない。

< 113 / 249 >

この作品をシェア

pagetop