君と奏でるノクターン
「そうだな……1ヶ月に1度ほど顔を見せる。そろそろ来る頃だ」


「あの青年、ミヒャエルだったか? ちょくちょく、詩月を誘ってくれるといいんだが」


「な~に。ミヒャエルのお気に入りなら、また連れてくるさ。それに、あのピアニストは客の心を掴んだようだ」


曲がイ短調からホ短調、そして第2主題ハ長調を過ぎ、第1主題を繰り返す頃には、店内の客は詩月しか見ていなかった。


ショパン作曲エチュード「木枯し」エチュードの中でも屈指の難曲と言われる。

広範な分散和音と半音階が入り混じる。

右手の激しい稲妻のような鋭い音に加え、左手の付点リズムが激しさをより一層駆り立てる。


――ただ、完璧に弾いただけでは、この曲は失敗だ。
「木枯し」――色彩感がなければ曲が死んでしまう



ミヒャエルは「周桜Jr.と呼ばれたくない」と言った詩月の技量も実力も、伊達ではないと思う。

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