君と奏でるノクターン
「!? ショパンを……詩月が」

宗月は険しい目で問う。


「そこのピアノで、狂った音をモノともせずに。弾き終えた途端、そりゃ~凄い歓声だった」

宗月はじっとピアノを見つめる。


「マスター、彼はよく来るのか?」


「いや。昨日、初めて学生と一緒に。ミヒャエル、知っているだろう?」


「ああ、バイトをしている学生だな。たしかヴァイオリンを弾く……」


「ミヒャエルが、あんな真面目そうな学生を連れてきたのは初めてだった」


「詩月はウィーンに留学してきたというのに、連絡1つ寄越さない……下宿先のユリウス夫婦から、様子を逐一聞いてはいるが」


「日本とヨーロッパ、離れて暮らしていて、年に数度しか会わなかったんだ。疎遠になっていても仕方ないだろう」

ハインツが宗月を宥める。


「詩月のショパンは……あのコンクール以来、聴いていない」



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