君と奏でるノクターン
詩月の言葉が、ミヒャエルの胸に突き刺さった。

詩月と駅まで歩き、酒場に戻ったミヒャエル。


「すまなかった」

宗月は心配顔で、ミヒャエルの手を握る。


――ピアニスト周桜宗月も父親だな

握りしめた宗月の手の温もりを感じる。


「宗月、マルグリットが駅まで迎えに出るそうだ」


「そうか」

宗月の顔に安堵の表情が浮かぶ。


「宗月、ヴァイオリニスト……詩月が引き受けなければ、どうするつもりだったんだ!?」


「考えていなかった。キャンセルの知らせを受けた時、真っ先に詩月の顔が浮かんだ。詩月の『懐かしい土地の思い出』が浮かんだ」


「呆れたな。……だが、彼はよく引き受けたな」

ミヒャエルはカウンターの中で、ビニール手袋を着け、食器を洗いながら会話を聞く。


「詩月は14歳から、街頭演奏をしている。弾けと言われて、いつでも弾ける実力はじゅうぶんある」
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